太陽系外惑星――人知の彼方に揺れる、もう一つの「空想」

一人の天文学者が、ある晩、望遠鏡のレンズ越しに“ほんのわずかな光の揺らぎ”を見たとする。その揺らぎが、太陽ではない星の周囲を巡る惑星の存在を示す――この時、私たちは「太陽系の外側」に、確かに“世界”があることを知ったのだ。
「太陽系外惑星(Exoplanet)」という語は、かつての人間にとって神話や空想の延長に過ぎなかった。が、今ではそれが数千にも及ぶ数で存在し、そのいくつかには“生命が宿る可能性”すら語られている。
では、太陽系外惑星とはいったい何か。そしてなぜ、2025年の今なお人々の心をこれほどまでに惹きつけてやまないのか。その答えを、少しずつ紐解いてみよう。
太陽系外惑星とは、その名の通り「太陽以外の恒星を回る惑星」のことを指す。1995年、スイスの天文学者ミシェル・マイヨールとディディエ・ケローズによって、ペガスス座51番星を巡る惑星「51 Pegasi b」が発見されたのが始まりとされている。
当初は、まるで空想科学小説のような話として受け止められていた。しかし、それからわずか30年も経たぬうちに、観測技術は飛躍的な進化を遂げた。2025年現在、NASAの公式記録では確認された太陽系外惑星の数は5,600個を超える(出典:NASA Exoplanet Archive)。
これらの惑星の中には、巨大なガス惑星もあれば、岩石質で地球に似た「スーパーアース」と呼ばれるものもある。そしてとりわけ注目を集めているのが、「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」内に存在する惑星たちだ。
2023年に稼働を開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、まるで古びた天体観測史に火を灯すかのごとく、数々の新発見をもたらしている。
とくに、TRAPPIST-1系の複数の惑星における大気の成分分析や、水蒸気の兆候の観測は、我々の胸の奥底にひそむ“地球以外の生命”への郷愁を強く刺激した。
言葉を変えれば、「ここではないどこか」に、我々の想像力は確かに触れたのだ。
芥川龍之介は、かつて「夢よりも現実の方が、かえって幻想的である」と記した。太陽系外惑星の研究が進む現代において、まさにこの言葉がふさわしい。
空想ではない。信仰でもない。
極めて科学的な手法の果てに、数百光年も離れた星の周囲に、水を蓄え、大気を纏う惑星が存在するかもしれない――この現実こそが、最も幻想的で、最も美しいのだ。
太陽系外惑星の探査は、いわば「鏡を覗くような行為」である。私たちは、そこに“地球に似た世界”を探しているのではない。
おそらく――“自分たち自身が何者か”を問うているのだ。
宇宙とは、巨大な沈黙でありながら、私たちの問いかけに応えてくれる書物でもある。
その1ページ目を、今まさに開こうとしているのが、太陽系外惑星の物語なのかもしれない。
【出典・参考リンク】
- NASA Exoplanet Archive(2025年4月時点)
https://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/ - ESA – European Space Agency / Exoplanet Discoveries
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Cheops